中野剛志

今、世界が経験しているのは、単なる経済現象としての不景気にとどまらず、政治や社会あるいは文化そして思想などにまで及ぶ、複合的で全般的な危機だと私は思います。 こういう世界的危機、あるいは歴史的転換期においては、それまで正しかったことが間違いで、これまで間違いだとされていたことが正しいといった現象が起きるものです。このようなときには、これまでの通俗観念にとらわれていては、問題を解決することができないどころか、致命的な判断ミスを犯すことになるのです。 ただ、残念ながら、この問題はあまりに複雑かつ巨大であり、私一人の能力では、どう頑張っても扱い切れないものでした。しかももっと問題なことに、事態は予想以上に早いスピードで進んでいました。 ヨーロッパはギリシャ危機に端を発して、EU成立以来最大の危機に直面しています。アメリカ経済は完全に行き詰まり、ウォール街で大規模なデモが発生しました。中国はバブルが遂に崩壊し始め、社会が不安定化し始めました。北アフリカなど、各地で政変や紛争が起き始めました。我が国は、東日本大震災に襲われるなか、政治は混迷の度合いを深めています。 私たちは、おそらく、世間で言われていることとは大きく異なる議論を展開していくことになります。本書の議論に違和感を覚える方もおられるかもしれません。 しかし、時代の転換期には、これまで異端とされてきた主張こそが正しいかもしれないのです。